最近、VIVYというアニメを視聴した。AIが発達した未来で、人間たちは反逆した彼らによって甚大な被害を受け、最終的には戦争に発展してしまう。そこでVIVYという一人のAIがこの戦争を未然に防ぐべく、100年前にタイムリープして核となっている事件を解決し、歴史を修正していく物語だ。
こういった人間VS機械(AI)といった図式はSFの世界では非常に多く、有名どころではターミネーターなどを想像していただければわかりやすいだろう。私も大好物である。
Human Punishment Social Deduction2.0 も例に漏れず、人間たちと機械の戦いをテーマにしているボードゲームだ。我々プレイヤーは、人間のみならず、機械側としてもプレイすることができる。この点は、今まで人間側からしか見てこなかった我々にとって斬新な形と言えるだろう。
そしてこういったSF作品ほぼ全てに共通する特徴がある。それは、どの作品においても、例外が存在するということだ。機械だが人間側につくもの、人間だが機械側につくもの、中立を守るもの…。Human Punishmentでは特にこの部分が突出している作品と言えよう。
人間VS機械VS…?
陣営の決定
自分が人間になるのか、それとも機械になってこのゲームに参加するのか。まずは、ここの決定からこのゲームは始まる。Human Punishmentでは、自身が何者なのかを示すIDカードと呼ばれるものが1枚、各プレイヤーに配られる。このカードが青いなら「人間」、赤いなら「機械」である。そして第3の陣営、この戦いを外側から干渉する存在、灰色のIDカード「無法者」だ。
このIDカードは自身の陣営を表すものであるが、これだけで必ずしも陣営が決定するわけではない。人間だからといって人間側につくわけではないし、機械だからといって必ずしも機械の味方であるとは限らないのだ。無論、無法者たちもこの限りではなく、時には一方の味方に転じることもある。それを決定づけるのが、陣営カードの存在だ。陣営カードは各プレイヤーに2枚づつ配られ、IDカードの両脇に配置される。ランプのような見た目の陣営カードは、その灯りの色が陣営を指し示している。先ほど同様、赤なら機械、青なら人間、そして灰色なら無法者だ。
こうしてプレイヤーの前には、1枚のIDカード、両脇に2枚の陣営カードが揃ったことになる。ここで現段階の陣営が決定されることになる。その指標は「マジョリティ(大多数)」だ。つまり、ID・陣営合わせて青色が多ければ「人間」サイド、赤が多ければ「機械」サイド、そして灰色が多い・もしくはマジョリティが存在しなければ「無法者」サイドになる。
目的を知れ
陣営が決定した今、ゲームは開始される。このゲームの目的は至極単純だ。君が人間サイドならば、人間サイド以外のプレイヤーを撃ち滅ぼせばいい。機械サイドならば、機械サイド以外のプレイヤーを殲滅すれば勝利だ。そして無法者たちに至ってはより残酷だ。君がもし無法者であるならば、君以外の全てを破壊しなければ勝利とはならない。たとえ無法者同士しか残らなくとも。
君の隣にいるのは誰だ?
さあ、儚くも残酷なゲームのゴングは鳴った。君は君以外の同胞を探しつつ、敵を倒していかなければならない。このゲームでは、プレイヤー間で自由に会話をすることができる。真実を語り団結することも可能だし、嘘を付き背後から襲いかかるのも自由だ。しかしIDカードと陣営カードを見ることができるのは自分だけであり、信用してもらうために他人に自らカードを見せることはできない。君に近寄ってくるのは、本当に味方か?それとも敵か?
プログラムをハックせよ
敵を破壊するために、味方を識別するために、自身を守るために、新たな色を投じるために。君はプログラムにハッキングをかけ、情報を手に入れなければならないだろう。このゲームでは、「プログラムカード」と呼ばれる情報の宝が存在する。どのプログラムを引き当てるかは運のみぞ知る。果たしてそれが、きみにとって有益な情報なのか、それとも自身を蝕むバグやスパムなのか…。
敵を撃ち滅ぼせ
情報が集まり、概ね敵味方の判断がついたのなら、あとは目的を遂行するだけだ。このゲームにおいて敵を討ち滅ぼす最もシンプルな方法。それは、敵のこめかみに銃口を突きつけ、その引き金を引くことだ。プレイヤーが装備できる武器は、拳銃にライフル、そしてコンパニオン。プレイ人数によって変動はあるものの、現段階ではこれらが君たちの有する唯一の武器だ。もし無事敵を討ち滅ぼすことができたなら、その度に勝利判定を行い、他陣営が全て息絶えたならばおめでとう、君の勝利だ。
誰も信じることのできないまま、拳銃を握れ
スチームパンクでテーマとしては決して軽くはないSFの世界。そんなテーマとは180度違い、このゲームは「パーティ」よりに属しているものだ。もちろん、勝利条件が存在し、目的遂行のために奔走するのだが、誰が敵なのか、味方は存在するのか、情報と時の流れは誰にも止められない。それほどに、このゲームは流動的である。時には、一番信頼している仲間にその銃口を突きつけるのも悪くないだろう。その結果は、君の陳腐な推理を易々と通り越すものであることだけは保証しよう。
使用するのはカード、3つのアクション、そして対話のみ
ゲームを行う際の準備(セットアップ)は非常にシンプルなものであり、プレイすることに躊躇はしないだろう。使用するのはプレイ人数に応じたカードだけであり、シャッフルしてプレイヤーに渡せばゲームが開始できる。プレイヤーがとることのできるアクションも3つのみ(調査・武装・ハッキング)であり、1アクションごとに頭を抱える必要もない。それがカードゲームの強みでもあり、それゆえ深みのあるゲームになりずらいというのが弱みでもある。しかし、パーティ寄りでありながら、しっかりとしたプレイ感を演出していくれるこのゲームは秀逸といえるだろう。
プラスしてこのゲームはカードをプレイすることに固執せず、プレイヤー本人たちの対話をゲームのメカニクスに組み込んでいる。対話によってカードを交換するといった行動はとれないものの、誰が怪しいのか、調査の結果誰の正体が分かったのか等のチームプレイを実行することができる点もゲームを盛り上げてくれる要素になっている。
細かくリアリスティックなアートワーク
いくつか写真を載せているが、パッケージだけ見てもこのゲームの魅力が溢れ出している。表紙におどろおどろしく映り込んでいる彼?もこのゲームに登場するキャラクターの1人だ。いったい彼は何者なのか、ゲームにおいてどのような立ち位置の者なのか、そもそも人間なのかAIなのか…。この1枚だけ見ても、いくつも疑問と好奇心が揺すられる。口元しか描かれていない不気味さ、黒マント、白い仮面。謎という言葉を表すにはぴったりだ。加えてこのゲームの背景は紫を基調とした、未来感のあるアートで描かれている。これは街の煌びやかさなのか、はたまた不気味さを体現しているのか、どちらにせよ目に付くアートであることは間違いない。
中身のカードについても、細かいディティールまでしっかりと表現されており、リアルなアートに目を奪われる。見れば見るほどに、どんなゲームなのか気になってくる。一つだけ難点を示すのであれば、やはりアートやテーマがリアルで重いものであるのに対して、プレイ感はパーティ感のあるものであり、そのギャップにいささか混乱してしまうという部分だ。もちろん、直接的なゲームプレイにはなんら関係はないのだが、テーマとプレイ感が合致していればより良いものになっていただろう。
いくつもの結末を迎えることができるリプレイ性
このゲームにおける最大の魅力であり、特徴であるといってもいいのがそのリプレイ性であろう。カードゲームというのはルールをできるだけシンプルにし、何回も繰り返し遊ぶことをメインに据えているものがほとんどであり、その点においてはこのゲームも例外ではない。最低4人以上で行われるこのゲームも、短くて15分ほどで終わる仕様だ。
しかし、このゲームを開け実際にプレイまでした側から言うのであれば、このゲームには他のカードゲームにはない、いや「できない」大きな特徴がある。この魅力だけで購入に至る人もいるくらいのものだと私は考える。
それは、「カードの効果に1つとして同じものが存在しない」ということだ。
具体的には自身が持つIDカード43枚、プログラムカード66枚の109枚に別々の効果が付されているのだ。(正確には1枚だけ同じカードが存在する。)少し荒い表現をするならば、頭のネジが外れている。なぜこれがそう簡単に実現し得ないのか。最も大きな理由は、やはりゲーム全体としてのまとまりを著しく欠いてしまうというのがある。いくつも存在する効果に矛盾が生じてしまったり、ゲームとしての収拾がつかなくなってしまう。そしてもう一つは、単純に制作に手間がかかることだ。100枚超のカードに別々の効果を付与しつつ、ゲームを成り立たせるというのは、クリエイターでない私でも想像ができるほど難解な作業だろう。そう言った意味を持って、このゲームは他にはない価値を有していると言える。
そしてそんな100枚超のカードのゲームを何度かプレイした身としては、このゲームは確かに綺麗な形では収まっていないのかもしれないと感じた。109枚全てがカッチリとハマっていたらそれはもはや神ゲーと呼ばれるにふさわしいゲームなのであろうが、それほどまでの感動を私は覚えなかった。しかし、自身のIDカードを見た時、プログラムカードを引いた際のワクワク感、ドキドキ感は確かに私を興奮させてくれるものであった。
この世界から抜け出せない
リアルなアートワークと、次々に流れ込み消え去っていく情報の波。このゲームはプレイヤーの視覚と思考を人質に、スチームパンクで残酷な世界へと君たちを誘うだろう。隣に座っている彼は本当にこちら側の者なのか?対面で不気味な笑みを浮かべている彼女は、本当に君の敵なのか?IDカードが公開された時に見える姿は、本当に真の姿と言えるのだろうか。目まぐるしく変わる景色に時間の概念すら忘れ、君の向けた照準はどこを指し示すのだろうか。
総評
このゲームを、アートワークが好みでないから。カードゲームだから。小箱だから。日本語版はないから。で片付けるのはあまりにもったいない。確かに戦略的なゲームとは言い難く、敵味方の判別は時に、神でさえも間違えるほどだろう。チームプレイという概念は薄いかも知れない。しかし、このゲームには、今まで私がプレイしてきたカードゲームおよび正体隠匿系のゲームでは頭ひとつ抜けている。ゲームにおけるサビの部分が、このゲームにはいくつも存在する。その原因は間違いなく、1つとして同じ効果のないカードたちだ。なんて言ったって、ここまで私が長々と書いてきたゲームの概要は、ただの概要でしかないのだから。
この世界では、情報は常に絶え間なく流れ続けている。
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