あなたは、友人と待ち合わせをした時、どれくらい「待つ」ことができますか。
友人はいまだ夢の中。
連絡を試みようと何度も電話をしたが、まるで返答なし。
段々と膨れ上がるフラストレーション。
でも、でも今日はやっとの思いで予約できた超人気店に行ける日。
こんなことで諦めるわけにはいかない。
さあ、そんな状態なら、あなたは何時間、何分、いや何秒待つことができますか。
「待つ」という行為は、待つ対象への期待値や興味度を、待つ時間によって数値化できる、なんとも不思議な行為だと私は考える。
上記のように超人気店でなかなか予約がとれないお店へのチケットならば、もしかしたら何時間でも待つかもしれない。
逆に、全く興味がないならば、早々に切り捨て、自分の時間をもっと有効に使うのかもしれない。
ちなみに私は、待つのが大嫌いだ。
性格的にはこれ以上ないくらいノロマだし、よく家族からは「本当にお前は食べるのが遅い」といつも小馬鹿にされる。
カメのような時間の使い方をする私だが、「自分の時間を他人に使われている」と判断するや否や、話は一変する。
顔はみるみる鬼の形相になり、罵詈雑言を心の中で四方八方に爆散させる。
いやはや、なんともわがままで面倒な性格である。
そんな私は、ボードゲームが趣味だ。
「おいおい。ボードゲームだって、相手の手番の時はずっと待ってるじゃないか」
と思われる方もいると思うが、ボードゲームは例外だ。
目の前でウンウン唸っている表情を見るのがたまらなく好きな私なので、こんなに歪んだ性格になってしまったのであろう。
そして、私はそんなボードゲームの多くを「海外」から輸入する。
面白そうなボードゲームというのは、どうもアメリカやヨーロッパに多いらしい。
しかし、では一体どうやって情報を集め、海外からここ日本へ輸入しているのか。
今は本当に便利な世の中で、アマゾンをはじめとする世界ベースのマーケットが、パソコン一つで解決する時代だ。
その恩恵を私も大いに享受しているのだが、時には日本への配送を許可していないものや、国内のみに限定しているものもある。
そんな時のために、私は海外にいくつか「仮倉庫」なるものを所有している。
そしてこの仮倉庫を使って、国内に私の欲しいボードゲームを輸入しているということだ。
もう少し詳しく正確に言うのであれば、実際に海外に倉庫を持っているわけではない。
とある転送サービスを利用しているのだが、その利用に伴って海外の倉庫に仮の住所を持っているということである。
長くなってしまったが、ここまでが今回の話の冒頭だ。
あくる日、私はいつものように欲しいボードゲームを求め、BGGと呼ばれる世界最大のボードゲーム情報サイトを巡っていた。
そして、出会ってしまった。発端となるボードゲームに。
興奮した私は、すぐに先方と連絡をつけ、商品を送ってもらうことに。
この時も運悪く、アメリカ国内のみの配送だったため、しぶしぶ転送サービスを使うことにしたのだが、どうやらこれが運命の分かれ道だったらしい。
いや。送ってもらう以外選択肢は他になかったのだから、このボードゲームを買ってしまったこと自体に問題があったのだろう。
先方は本当にいい人で、連絡をもらってからすぐに配送の手続きを行ってくれた。
配送の連絡をもらった私はというと、もう部屋の中で小躍りをするくらいウキウキである。
「いくら国外からの輸送だとしても、個別の荷物ならば一週間とたたずに手元に来るであろう」
その時はそんな確信が私にはあった。
その時は。
しかし、商品はこなかった。
待てど暮らせど、商品はこなかった。
今まで、私の細々とした人生上、頼んだ商品が届かないなどということは、ただの一度もなかったのに。
ウッキウキで待ち侘びていた商品がどうやら来ないとなると、私の顔はもう「鬼」そのものとなっていた。
商品を頼んだ時の高揚感。
到着を待っている間のそわそわ感。
あれまだかなっていうちょっとした不安感。
遅いなあという焦燥感。
ああもう来ないんだなと確信した絶望感。
こんなに様々な感情を抱かせたあげく、楽しみにしていたことを目の前で取り上げられた私をもう、止められるものはいなかった。
スンッと感情を失った私は、現実的な問題を解決することにした。
頼んだ商品が来ないのだから、その対価を支払う必要もまたない。
そして、こうなった犯人は誰なのか、絶対に突き止めてやる、と。
敏腕刑事もビックリの執着の鬼と化した私は、まず事件の全容を整理し、ホシを特定することにした。
商品の流れを追うと、
「販売者→配送業者1→転送サービスの倉庫→配送業者2→私」
こうなるはずのどこかで止まっている。
まずは販売者だ。
しかし、先ほども言ったように、販売者の方とは直接やりとりし、とても親切でいい人だったので心象はかなりいい。
そしてなにより、この方には確固たるアリバイが存在する。
転送サービスの倉庫に到着した際に、商品の写真が私へ向けて送られてきているのだ。
つまり、この時点で転送サービスの倉庫までは足取りがつかめたことになる。
となると、残る犯人は「配送サービス」かその後の「配送業者」か、だ。
そして結論を言おう。
犯人は特定できなかった。
かくしてこの事件は迷宮入りを果たすことになってしまった。
しかし、私もただで終わったわけではない。
それぞれに対し、「クレーム」と言う名の聞き込み調査を行った。
本当に迷惑な客である。
まずは転送サービスPだ。
彼らのカスタマーセンターは日本語にも対応しており、非常に優秀かつ迅速な対応を行ってくれた。
私のような面倒な客にも丁寧な受け答えで、今回迷宮入りにはなってしまったが、今後とも利用は継続していこうと思っている。
そんな彼らが言うには、「間違いなく配送業者へ集荷の依頼を頼んでおり、今現在も倉庫内に私のボードゲームはない」とのことだった。
では、配送業者Fに移ろう。
始めに言っておくが、私は彼らとの対話を一方的に切られてしまった。
こちらのカスタマーセンターも日本語に対応しており、ライブチャットなどで問い合わせもできることから、詳しい話が聞けると思ったのだが、どうやら彼らに私と対話する気はなかったらしい。
しかも巷ではカスタマーサポートの評判は高いときたものだから、余計に腹立たしい。
「現在倉庫に商品はあるのか?
確認できないのであれば捜索はしてもらえるのか?
なかった場合、返金などの手続きはできるのだろうか?」
我ながら小さい人間だと思うが、どうしてもそのボードゲームが欲しかった私は食い下がった。
しかし、彼らの取った行動は私との会話をシャットアウトすることだったようだ。
唯一聞けた情報は、「集荷のデータはあるが、倉庫内に商品はない」だ。
「これ以上メッセージを送ることはできません」
と表示された画面を前に、もはやなす術を失った私は、ただ時間がすぎるのを待つしかなかった。
そして先日2021年9月14日。
転送サービスPから一通のメールが届いた。
内容を見るに、どうやら転送サービス側で配送業者Fへ捜索依頼および補償依頼を行っていたらしい。
転送サービスのマイページを訪れると、配送料として入金していた金額が返金されていた。
まだ、これがどのようなものなのか確認はしていないが、そういうことなのだろう。
こうして、私の長い戦いは一応一区切りがついた。
商品を頼んだのが2021年6月13日なので、3ヶ月もの間、ずっと悶々としていたことになる。
このような経験を通して、私が言えることは「ご利用は慎重に」ということだ。
今回私の待ち侘びたボードゲームは、おそらく紛失してしまったんだろう。
私の手元へは来てくれなかった。
残念だけれど、一応形としては返金もされ、区切りもつき、こうして面白話として消化することができた。
もちろん、今現在の世界状況を見れば、大変お忙しい中、さらに私のようなクレーマーの相手までしてもらい、本当にありがとうございますという気持ちでいっぱいだ。
上でも言ったように、私はこれからも海外の転送サービスや配送業者のお世話になるだろうし、もしかしたらまたトラブルになるかもしれない。
そうなったら私はまた、懲りもせずに小躍りを始め、最終的に鬼のようになるのだろう。
しかし、それでもいいと思う。
私にとって、ボードゲームとはそれほど「待つ」べき価値のあるものなのだから。
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