アゴラの広場では、市民の噂と驚きの声が飛び交っている。
その喧騒はどんどん大きくなり、今やお互いの声さえも聞き取りにくいほどだ。
それでもあなたは、民の議論に耳を傾けなければならない。
あなたの決断が、あなたの都市の発展を左右するのだから。
「Khôra: Rise of an Empire」
- テーマ:古代ギリシャ
- 方式:対戦
- 主要メカニズム:アクション選択
- プレイ人数:2ー4人(おすすめは4)
- 想定プレイ時間:50分前後
- プレイ適正年齢:12歳以上
- 入手難易度:★☆☆☆☆
Khôra: Rise of an Empireでは、プレイヤーは古代ギリシャでそれぞれの都市国家を束ねる首長となる。
栄誉も、文化も、経済も、軍事も発達していない状態から始まり、徐々に、しかし着実に成長速度を加速させながら、誰よりも多く勝利点を重ねることがこのゲームの目的だ。
9ラウンドという限られた時間の中で、どのアクションを選択し、都市を発展させていくかが悩ましい本作。
元はImprovement of the Polisという名でかつて日本で発売されていたゲームのリメイク作品でもある。
古代ギリシャで花開く、均整のとれた美しさ
この作品を一言で表すならば、「完成されている」ゲームだ。
決して少なくない要素が散らばっておらず、綺麗にまとまっているため、ゲーム中に思考が迷子にならない。
そのバランスの良さには西欧建築のシンメトリーさのような美しさすら感じる。
以下でもう少し詳しく内容を掘り下げていく。
ゲーム中にルールブックを開く必要なし
ゲームをプレイして感動したのは、ルールのまとまりの良さだ。
このゲームにはテーブル中央に置かれる共通ボードのほか、個人ボードが存在するが、セットアップ時を除きルールはこれらのボードで完結する。
処理を忘れたときにルールブックを参照することは非常に稀だ。
ラウンドの流れは個人ボードに記載、カードの効果やアイコンも簡潔でわかりやすいため、ゲームプレイにおける快適性はとても高い。
かといってルールがシンプルすぎるわけでもなく、しっかりと悩ましく、噛みごたえのあるゲームプレイを提供してくれるのはとても好印象だ。
リアルなアートワークに思わずウットリ
美しさという点においては、アートワークもしっかりと存在感を出している。
私自身がこういったリアルなタッチのアートワークに目がないということもあるのだが、細かい部分まで描き込まれた本作は、何度プレイしてもうっとりするものがある。
また、古代ギリシャというテーマと世界観にも見事にハマっていて、文献でしか感じることができない「古代ギリシャ」を視覚的に楽しませてくれ、よりゲームのワクワク感を増長している。
全部やろうは馬鹿野郎
本作のメインメカニズムはアクション選択だ。
プレイヤーは、ラウンドごとに以下のアクションから何を実行するかを選び、着実に都市を発展させていかねばならない。
- 0.哲学
- 1.立法
- 2.文化
- 3.交易
- 4.軍拡
- 5.政治
- 6.進歩
この中から最初は2つを選び、実行していく。
文化の発展を急ぐか、交易で金銭を稼ぐか、はたまた軍拡で軍事に特化していくのか。
何を優先して、何を切り捨てるのか。
全部をそつなくこなしていくのが正解なのか、何かに特化して突き進むのは失敗なのか。
それを決定づけるのは、なにもプレイヤーの意思だけではない。
このゲームはアクション選択の前にダイスを振ることで、基本的にその出目以下のアクションのみが実行できるのだ。
まさにゼウスの選択。
つまり、5や6が出ないと政治や進歩は実行できないのだ。
そして、都市発展の方向性を決定づけるのが次に書く個人能力の違いだ。
スパルタ?アテネ?コリントス?
本作では、それぞれ7つの都市国家(ポリス)の首長のうちの1人を担ってもらう。
- オリンピア:古代オリンピックが行われた地。
- スパルタ:世界最強の重装歩兵軍を携える厳格国家。
- ミレトス:タレスを始めとする多くの哲学者を有する。
- アテネ:中心部にはパルテノン神殿がそびえ立つ。
- テーバイ:精強を謳われた「神聖隊」の他、オイディプス伝説の地。
- コリントス:交通と交易の要衝として繁栄。圧倒的経済力を誇る。
- アルゴス:広大なアルゴス平野は要塞・居住区として栄えた。
都市国家はそれぞれ独自の特殊効果をもち、ギリシャの都市の発展に寄与する。
ある者はその内に秘めたる知識を、ある者は有り余る経済力を、そしてある者はカリスマ的な軍事力を持って。
完璧を追い求めて
まだプレイしていないあなたに伝えるならば、「このゲームで全てをやり切ろうとするな」と忠告しておこう。
多くのゲームでもそうであるが、ゲームは突然終わりを迎えるものだ。
9ラウンド制をとっている本作だが、進行は意外にもトントンと進む。
気づけば最終得点計算でゲームは幕を閉じる。
「やり切れなかった」思いが、次のゲームへの起爆剤となり、君をさらに強い首長へと導くだろう。
総評
対戦型ボードゲームに触れ、ある程度慣れた方なら人を選ばず好まれる良作だと言える。
元のImprovement of the Polisの頃から整っている作品だが、アートワーク等が一新され、さらにプレイアビリティが向上している。
60分程度で1ゲームを終えられる部分も中量級としては手を出しやすく、重宝できるだろう。
- グラフィック、ゲームプレイ、操作感と均整のとれたバランス感。
- シンプルすぎず、複雑すぎないながらもがっしりゲームをさせてくれる。
- あと数ラウンドあれば…で終わってしまうため、自然とリプレイしたくなる。
- バランスがいい分、尖っている部分はない。
- 個人能力に若干偏りがある(私は偏りある方が好き)。
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