超問題児、それがパックスパミール。
私がこのボードゲームと相まみえたのは、2019年。
一般的な華やかで目を引くパッケージとはちがい、目立たない紫一色。他のボードゲームを蔑むような、「私を他と一緒に見ないで」とでも言いたそうな高級感を纏ったそのボードゲームの紫色は、その性格を色濃く反映した「毒々しさ」だったのかもしれない。
そんなことは、購入時気にもしなくて、「なんて綺麗な箱絵!!」なんて言っていた自分を殴りたい。実際、私が持っているボードゲームの中でも、飛び抜けて気に入っているパッケージの1つがパックスパミールだ。
暗くて落ち着いた紫が醸し出す高級感、差し色の白と黄土色がまたいいアクセントになっている。これで裏面も紫一色にしてくれていたら家宝にしていたところだ。加えてサイズ感もめちゃめちゃいい。全体的には、名作「宝石の煌き」と同じくらいのサイズなのだが、微妙に厚さがなく、その分より長方形なのである。
そして極め付けは重量感。これが「重い」のだ。このサイズ感と重量感の絶妙感は、ぜひぜひぜひ、実物を触って感じてほしい。私は電撃が走った。まだこの時ゲームをプレイしてはいなかったのだが、こいつを手放すことはないだろう、と思った。今記事を書いている時でも、なめらかな指触りの感触が容易に想像できるのが憎い。
内包された美しさが爆発する
ゲームの話以外でこんな筆が進むとは思っていなかった。しかし、申し訳ない。このゲームに関しては、まだ全然話し足りないし、話さなくてはいけない。
そう、コンポーネントだ。
宝箱を開ける瞬間というのは、なぜここまで胸を高鳴らせてくれるのだろうか。ましては、このサイズ感でこの重量感だ。絶対に期待を裏切らない確信がある。わくわくしないわけがない。
これもぜひ体感してほしいところではあるが、これは紹介記事だ。仕方ない、視覚的な楽しみを奪ってしまうのは申し訳ないが、少しだけ中身をお見せしよう。
まず目を引くのがやはり重量感の正体であろう、3色の直方体だ。このコマ、ざらっとした手触りで粘土や石のように感じるが、どうやら樹脂製らしい。表面には紋様やら動物が彫り込まれており、すでに鼻息が止まない。
次に目を引くのは、布。くるっと巻かれていたものを広げると、なんとそれは地域が描かれたマップボード!どうして私の鼻の穴は2つしかないのだろうかというほどに興奮が止まらない。
そして最後は、メタルコインだ。これに関してだけは別途販売になってしまっているのだが、もしこのゲームを気に入り、長く遊ぼうという気になるのであれば、必需品レベルだと言っておく。
見た目がよくなるのはもちろんなのだが、テーマ性の高い今作ではよりその魅力を引き出してくれるし、なによりこのゲームはほぼ毎手番、お金が動く。必然的に高い頻度で触るので、持っておいた方が絶対に良いと言える。
私が持っているゲームの中でも抜きん出た曲者、本当に捻くれている
さて、ここまでが外見の話だ。そしてここからはゲームの話をしようと思う。
見出しにも書いたが、外見と違って、中身は相当問題児だ。捉え方によっては異論を唱えたくなる人もいると思うが、それでも構わない。
私はこのゲームを「捻くれわがまま王女様」だと思っているし、その評価を変えることもないからだ。その理由を以下で話していこう。
誰一人として正しいルールでプレイができない
まずコレだ。ルールが煩雑すぎる。
これはなにも「ルール量が多い」ことに起因するわけじゃない、というのがまた憎たらしい。むしろなぜこのルール量でこんなに頭を悩ませられるのか、自分の読解力のなさにも辟易する。
かれこれもう十数回プレイしているのだが、やるたびに「あれ、これこういうことじゃないのか」という問題が発生し、一度として完全に正しくゲームをプレイできた試しがない。おそらく、プレイされている人たちの中には、間違ってプレイしているという認識すらない人もいると思う。
波及先が広くかつアイコンも誤解を誘うものが多い
ではどうしてこんなことが起きてしまうのか。考えてみると、思うのは2点。
1つ目は、アクションに対して付与されている効果が多すぎるのだ。実行するアクションに対し、アクションをするための制約、実行した際の即時効果、そこから波及する2次効果…、と頭がこんがらがってしまう。
かつ、ゲームに使用するカードには特殊なカードも存在するため、盤面を広く見渡し、最適解を探るのはとてもシビアだ。だからこそ、クリアなプレイをするためにはどうしても全員でゲームを作っていくというスタンスが必要不可欠になる。
2つ目は、アイコンのわかりにくさだ。ゲームのアイコン化は、言語依存をなくし、視覚的にピンポイントで理解できるように設計されているのが常だと思うが、正直「これどういう意味なのだろうか?捉え方によっては別の意味に捉えることもできるけど…」といったものが複数存在する。
この部分に関しては、私の読解力のなさに加え、BGGのフォーラム、日本語ルール、原文ルールもチェックしているのだが、明確な答えに辿り着けていなくて、絶賛モヤモヤ中でもある。
このように、ゲーム中にルールを何度も確認したり、正確なプレイングをするために全員と意思疎通をはかっていると、なんだか協力ゲームをしている気にもなってくる。
果たして私たちはパックスパミールを遊んでいるのか、パックスパミールに遊ばれているのか。
バチバチの殴り合い?いやいや、バチバチバチバチバチくらいです。
捻くれ王女様の性格についてはこんなところなのだが、ゲーム性もまたとんでもなく普通じゃない。
インタラクション(他人へ干渉)の強いゲームというのはそこそこに経験してきたつもりだが、このゲームはその中でも群を抜いている。通称「裏切りのゲーム」と称されるパックスパミールでは、得点のために頻繁に、本当に頻繁に戦闘や裏切りが起こる。友情破壊ゲームと言われるスマブラや桃鉄もびっくりのバチバチ具合だ。
裏切りが多すぎて言葉を失うレベルだ。突拍子もなさすぎて怒りすら湧いてこない時がある。確実に人は選ぶし、苦ーい顔をしてプレイする友人を何人も見ている。
でも面白い。システムとテーマ、フレーバーが良すぎて。
冒頭に箱を褒めて、中身でその腹黒さに絶句したが、安心してほしい。
私はこのゲーム、大好きである。
アニメや漫画の世界で、性格は最悪級だけど、容姿の整った王族の毒吐きキャラが人気を博すのが少しわかる気がする。
システムはエリアマジョリティの皮を被った何か違うもの、という印象でとても独自性があるし、カード1枚1枚にフレーバーがついているので、暇な時間に読んだりしているだけでも楽しい。特にテーマが「グレート・ゲーム」(イギリス対ロシアの戦い、舞台がアフガニスタン)なので、かつて学生時代に世界史を履修している方なら、特にブッ刺さるのではないだろうか。
私は残念ながら世界史は詳しくなかったが、アフガニスタンの偉人の名前を叫びながら場に出すだけでも楽しい。単細胞でよかった。
しかし、気をつけなければならないのは、よく見知った友人たちとゲーム性を分かった上でプレイすることが最重要であるということだ。
でなければ、捻くれ王女様の機嫌を損ねてしまうのだから。
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